フィンスイミングの話をすると、みんなまずモノフィンに目を奪われます。イルカの尾びれのような大きなモノフィンを履いて、人魚みたいに体をうねらせて進むあの姿。たしかに最速で、いちばん派手で、花形です。
でも、そのとなりで確実に競技の土台を支えている種目があります。それがビーフィンです。2枚のフィンを履いて、クロールで水面を突き進むこの種目。一見すると「ただ足ひれを履いて泳いでるだけ」に見えるかもしれません。ところが、極めていくとこれがめちゃくちゃ面白く、難しいんですよ。なにせ、フィンスイミングという競技そのものの原点が、ここにあるんですから。
ビーフィンとは?2本のフィンでクロールを泳ぐ種目
ビーフィン(Bi-Fins、競技記号ではBF)は、左右2枚のフィンを履いて泳ぐフィンスイミングの種目です。「ビー/バイ(bi)=2つ」のフィン、そのままの名前ですね。
泳ぎ方の基本はクロール。バタ足で水を蹴り、腕もふつうに回します。顔は水につけたまま、シュノーケルで呼吸をしながら、ずっと水面を進んでいきます。プールの種目は50m・100m・200m・400m、男女2名ずつの混合4×100mリレー、さらに、男女2名ずつでそれぞれサーフィスとビーフィンを泳ぐ4×100mのSBミックスリレーもあります。海に出れば4kmや6kmのオープンウォーターまである。短距離の爆発力から長距離の粘りまで、幅の広い種目です。
ポイントは、この泳ぎが普段の素足のでの泳ぎにすごく近いということ。クロールが泳げる人なら、フィンを履いた瞬間からいつもよりも「速い速度で進む感覚」を味わえます。ここがビーフィンの入りやすさのメリットです。
モノフィンとの一番の違いは「泳ぎ方」
ビーフィンとモノフィン、道具の種類が違うのはもちろんですが、いちばん大きな違いは泳ぎ方そのものです。
モノフィン(サーフィスやアプニアで使う種目)は、両足を1枚のブーツにそろえて入れ、腕を頭の後ろでまっすぐ組み、けのびの姿勢で体全体をムチのようにしならせるドルフィンキックで進みます。足だけでなく、胸から腰、脚の先まで一本のうねりを作る、手を使わない泳ぎです。
いっぽうビーフィンは、左右の足が独立しているので、キックはバタ足。腕もクロールのようにかきます。つまり、モノフィン=ドルフィン、ビーフィン=クロール。ここがきれいに分かれます。
ちなみにスタート・ターン直後の水中15mだけは、ビーフィンでもドルフィンキックで潜って進むことが認められています。でもそれ以降は水面をクロールで、というのが基本のルールです。
この違いは、始めるときのハードルに直結します。モノフィンでのうねりはゼロから覚える新しい動きですが、ビーフィンのバタ足は、水泳経験者なら体が知っている動き。だからこそ「まずビーフィンから」という順番が生まれるわけです。
実はビーフィンのほうが先輩だった
ここが今日いちばん伝えたい、そうなんだ!ポイントです。フィンスイミングは、そもそもビーフィンから始まりました。
競技が生まれた当初、フィンといえば2枚1組のビーフィンしかありませんでした。モノフィンは、あとから生まれた発明品なんです。世界水中連盟(CMAS)の記録によれば、1968年に旧ソ連のポロトフという人物が、チタン合金の骨組みにゴムを張った全長80cmほどのモノフィンを作ったのが始まり。翌1969年、その選手が水中種目で世界記録を塗り替えました。
面白いのが、そのときのエピソード。ある選手がホテルにビーフィンを忘れてきてしまい、仕方なくモノフィンで100mを泳いだところ、世界記録を2秒以上も更新してしまった、という話が伝わっています。1枚のフィンがどれだけ速いかを、うっかりが証明してしまったわけですね。1971年にはグラスファイバー(FRP)製のモノフィンが普及し、記録は一気に何秒も縮まっていきました。
こうしてモノフィンが花形の座を奪っていったのですが、ではビーフィンが消えたかというと、そうではありません。
競技の独立した種目としてCMASがビーフィン(BF)を世界大会の正式種目に導入したのはそれから約40年後の2006年のこと。最初は50m・100m・200mだけでしたが、後に400mが加わりました。導入の理由のひとつは、高価なモノフィンをそろえられない人にも競技の門戸を開くため、と言われています。原点にして、いちばん裾野の広い入口。ビーフィンは、そういった長い歴史も兼ね備えた立ち位置の種目なんです。
Jビーフィンとは?初心者の大会デビューの入口
日本では、ビーフィンがさらにもう一段やさしくなった種目があります。それがJビーフィンです。
Jビーフィンは、日本国内限定で行われる普及目的の種目。いちばんの特徴は、道具の規定が正式のビーフィン種目よりもゆるいこと。そして、フィンスイミング初心者が最もつまづきやすいシュノーケルの使用が任意なんです。
「シュノーケルの呼吸ってまだちょっと怖い」
「そもそもどのフィンを買えばいいのか分からない」
そんな始めたばかりの人でも、とりあえず手持ちのお好きなフィン、使い慣れたフィンで、シュノーケルなしでも大会に出られる。そういう設計になっています。
これって、地味だけどものすごく大事な仕組みなんですよ。スポーツって、最初の一回目の大会に出るまでのハードルがいちばん高い。Jビーフィンは、その「はじめの一歩」をちょっとづつ踏み出せるように、わざとルールをゆるめてある種目なんです。ここで大会の空気に慣れて、次にCMASビーフィンやサーフィスへ、という道が自然にできています。
CMASビーフィンとは?世界とつながる国際ルール
Jビーフィンが国内の入口なら、CMASビーフィンは世界基準の本番です。世界水中連盟(CMAS)の国際ルールに則って行われ、世界選手権やワールドカップ、ワールドゲームズで競われるのはこちらです。
ルールはぐっと本格的になります。シュノーケルの着用は必須。スタートも両足を揃えなければならず、競泳のようなクラウチングスタートは禁止です。そしてフィンは、CMASが認定したものしか使えません。改造も一切禁止で、売られている状態のまま使うのがルールです。
Jビーフィンで競技の楽しさを知り、CMASビーフィンで世界と同じ土俵に立つ。同じ「ビーフィン」という名前でも、この2つは入口と本番、きちんと役割が分かれているんです。
どれくらい速い?記録で見るビーフィンの世界
では、トップはどれくらい速いのか。数字で見るといっそう面白いです。
2025年8月時点の世界記録で、男子50mビーフィンは17秒96(セバスチャン・サボー/ハンガリー)、男子100mは40秒45(シモン・クロピドウォフスキ/ポーランド)。女子は50mが20秒52、100mが45秒16で、どちらも絶対女王ペトラ・シェナーンスキー(ハンガリー)が2017年に出した記録です。彼女の記録は8年ものあいだ破られていない、とんでもない壁になっています。
ここでモノフィンのサーフィスと並べてみましょう。同じ50mの世界記録は、男子が14秒83(マックス・ポシャート/ドイツ)、女子が16秒94(チャン・イェソル/韓国)。つまり同じ距離でも、モノフィンはビーフィンより3秒ほど速い。この数秒の差こそ、両足を1枚にまとめて体全体のうねりで進むモノフィンの推進力の大きさを、そのまま表しています。ビーフィンが遅いのではなく、モノフィンが異常に速い、と言ったほうが正確かもしれません。
ちなみにビーフィンの世界の頂点はハンガリーやポーランドといったヨーロッパ勢が握っています。フィンスイミングは日本ではまだ知る人ぞ知る競技ですが、海外では強豪国がしのぎを削る、れっきとした国際スポーツなんです。
だからこそ、最初の一歩はビーフィンから
ビーフィンは、2枚のフィンでクロールを泳ぐ、フィンスイミングの原点。モノフィンのドルフィンとは泳ぎ方が違い、普段の水泳に近いぶん、始めようとする人にいちばんやさしい種目です。国内には入口としてのJビーフィンがあり、その先に世界基準のCMASビーフィンが待っている。
もしあなたが「フィンスイミングをやってみたいけど、いきなりモノフィンはハードルが高そう」と感じているなら、まずはビーフィンです。クロールが泳げるなら、フィンを履いたその日から「進む楽しさ」を味わえます。
種目ぜんたいや、速さ・始め方をまとめて知りたい人は、フィンスイミングとは?速さ・種目・始め方もあわせて読んでみてください。ビーフィンという最初の一歩の先に、どんな世界が広がっているのかが見えてくるはずです!





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