アプニアとは?息を止めて50mを潜り抜ける、フィンスイミング最速の種目

アプニアとは?息を止めて50mを潜り抜ける、フィンスイミング最速の種目

  • アプニアは50mを一度の呼吸で潜り抜けるフィンスイミング種目で、全種目中最速。世界記録は13.70秒(2019年)
  • シュノーケルを装着せず、スタートからゴールまで顔を水面に出さず、完全に潜った状態で泳ぐ
  • 水面の波による抵抗がないため、サーフィスより1秒以上速い。爆発力と精神力の両方が必要
  • フリーダイビングとは異なり、決まった50mの距離をどれだけ速く泳ぐかを競うタイム競技
  • 安全のため細かいルール・審判・安全監視体制が整備され、年齢別の距離制限も設けられている

息つぎを一度も行わず、水面にも出ず、水中を潜ったまま50mを泳ぎ切る。そんな種目が、フィンスイミングにはあります!

その名はアプニア(Apnea)。日本語で言えば「無呼吸」です。数ある種目のなかでいちばん速く、水中最速種目と言われるにも関わらず、いちばん静かで、いちばん張りつめた種目。今日はこのアプニアを、競技として正確に紹介いたします。最後に、安全についても大事な話をします。

アプニアとは、息を止めて水中を潜り抜ける種目です

アプニア(AP)は、フィンスイミングのなかでも50mだけ(短水路の場合は25mも)に設けられた種目です。特徴は、道具と泳ぎ方にはっきり出ています。フィンはつけますが、シュノーケルはつけません。そしてスタートからゴールまで、一度も呼吸をせず、顔を水面に出さないまま水中を進みます。途中で顔が水面に出てしまうと、なんと失格。文字どおり、ひと息で50mを潜り切る種目なんです!

水面を泳ぐサーフィスが「呼吸をどう泳ぎから切り離すか」を突き詰めた種目だとすれば、アプニアはそもそも呼吸を手放してしまった種目。同じフィンスイミングでも、まったく別の緊張感がそこにあります。

ひと息に、すべてを賭ける

アプニアの面白さは、呼吸を手放したぶんだけ速さに全振りする、その割り切りにあります。息を吸えないので、途中で立て直す余地はありません。だからこそ、勝負は水に入る前から始まっています。
スタートでどれだけ勢いをつけ、鋭く潜り、泳ぎ始められるか。前半をどんなペースで運び、浮き上がりたくなる後半をどこまで我慢できるか。

初めの頃は体は自然と水面へ、空気へと向かおうとします。その本能を抑えて、最後の一かきまで沈んだまま進み切る。速さの勝負であると同時に、静かな精神力の勝負でもあるんです。

飛び込んだら水中で泳ぎ続けるため、観ている側には、水しぶきも呼吸の音もほとんど届きません。ただ水の下を、矢のように進む影があるだけ。その張りつめた十数秒に、アプニアという種目の凝縮された面白さがあります。

フィンスイミングで、いちばん速い

アプニアは、全種目のなかで最速です。50mの世界記録は13.70秒(2019年、ロシアのパベル・カバノフ)。水面を泳ぐサーフィスの世界記録14.83秒より、さらに1秒以上速いタイムなんです!

理由はシンプルで、潜っているからです。水面を泳ぐと、体が水面をかき分けるときにできる波が抵抗になります。ところが完全に潜ってしまえば、その波の抵抗がない。

だからこそ、潜って泳ぐアプニアが最速になるわけです。フィンスイミング全体の速さの話は「どれくらい速い?」の記事でもまとめています。

ちなみに、2024年には13.59秒という、さらに速いタイムも確認されています。ただし、こちらはタッチの判定をめぐって「非公式」の扱いとされているため、公式記録としては13.70秒が広く参照されています。記録の世界は、こういう一つひとつの判定の積み重ねでできているんですね。

「フリーダイビング」とは、似ているようで別物です

「息を止めて潜る」と聞くと、フリーダイビングを思い浮かべる人もいるかもしれません。でも、アプニアとは別物です。

フリーダイビングにも、プールで距離を競うダイナミック・アプニアという種目があります。こちらは「どれだけ長い距離を潜れるか」を突き詰めるもので、AIDAなどの規則では、プールで25mを超えて泳ぐ場合に安全監視員(セーフティダイバー)を配置することが定められています。

いっぽう、フィンスイミングのアプニアは、プールの50mという決まった距離を、どれだけ速く泳ぐかを競う、短距離のタイム競技です。

距離を追うのか、時間を削るのか。同じ「無呼吸」でも、向かっている方向がまるで違います。アプニアは、あくまでスプリント。一瞬の爆発力の勝負なんです!

大事な話!これは「安全に管理された競技」です

ここは、はっきり書いておきたいところです。

アプニアは、細かいルールと、審判、そして周囲の目があるなかで行われる管理された環境だからなりたつ競技です。安全のための決まりも段階的に設けられていて、たとえばCMASの規則では、12〜14歳の年代は最大25mまでと距離が制限されています。いきなり50mを潜らせるのではなく、体の成長と経験に合わせて距離を積み上げていく。その順序そのものが、安全への配慮として組み込まれているわけです。

いっぽうで、無呼吸で水中を進む行為そのものには、一般に知られたリスクがあります。息こらえによる意識の喪失(ブラックアウト)は水面近くで起きやすいことが知られており(DANなどが注意を促しています)、フリーダイビングの世界では監視員の配置が義務づけられているほどです。だからこそ、この記事を読んで「かっこいい」と思っても、いきなり一人で、あるいは自己流で無呼吸の潜水を真似ることは、絶対にしないでください。

アプニアの選手たちは、ルールと監視、そして積み重ねた練習・トレーニングのうえで、この種目に挑んでいます。速さの裏側には、そこまでの安全への配慮があるということも、セットで知ってもらえたらうれしいです。

息を止めて、静かに、けれど誰よりも速く水を切っていく。アプニアは、フィンスイミングという競技の奥行きを教えてくれる種目です!

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